2011年5月12日木曜日

東日本大震災 東京電力福島第1原発 113 2011年5月9日日経ビジネス カゴメ、デルモンテ、モスバーガー




これらの情報は新聞、テレビのネット版、2ちゃんねる、またいろいろの人のブログから拾ったものだそうです。


201159日(月)日経ビジネス59

風評に振り回されないための“3つのこと”

福島県産を買わないカゴメとデルモンテ、買うモスバーガー

風評被害の原因の2つは、「情報不足」と「想像力の欠如」
 東京電力の福島第1原子力発電所の事故発生直後、首都圏では福島県産だけでなく、近隣県の農産品の販売も拒否するスーパーが現れた。いわゆる風評被害だ。
 被害は農産品だけでなく、水産物にも及んだ。首都圏のある市場が、原発被災地からの入荷を拒否したというのだ。被災地を応援したい気持ちはあっても、目の前に突きつけられると避けて通ろうとしてしまう現実を思い知らされた。ニュースを聞いて、同じ水産業に従事する仲間同士なのに、苦しい時こそ助け合わなくてどうするのだと残念に感じた。だが、自分が同じ立場だったとしてウェルカムと笑顔で受け入れられたかと想像すると、人ごとではないような気がした。
 告白するが、事故発生直後、我が家ではスーパーに並んでいた福島県および隣県産の農産品を買わなかった。放射線が規定以下であることを信じていないわけではないし、むしろ原発事故のニュースには大きな関心を持って毎日何度も見ている。専門家の話も聞いた。規定以下であると分かっていても、野菜の種類は多く選択肢がある。ホウレン草にビタミンAや鉄分が豊富なのは分かっているが、それぞれニンジンや大根で十分補える。今わざわざ福島県産のホウレン草を買わなくてもいいかなという気持ちが芽生えて、素通りしてしまっていた。
 4月初め、福島県の都内のアンテナショップが県内産野菜の即売会を行った。地元の人が声をからしながら、現地の窮状と産品の安全性をアピールしたところ、およそ20分で売り切れたそうだ。テレビのインタビューに答える人たちは、口々に「応援してあげたかったから」と答えた。私もそこに通りかかったら、おそらく買っていたと思う。「一つになろう、ニッポン!」のメッセージに共感した多くの日本人なら、無視して素通りすることは心苦しいに違いない。
 私の当初の行動と、アンテナショップの売れ行き。この違いは何だろう。情報が十分であったとすれば、私は「想像力」の差ではないかと思うのだ。アンテナショップでは、困っている人が直接話しかけてくるので想像などしなくてもリアリティーがある。気持ちが伝わるし、現地の農家の人たちの気持ちも容易に想像できる。ただ単に、福島県および隣県産とそれ以外の農産品が並んでいる陳列棚の前では、私の想像力はそこまで及ばなかった。
 事故発生から2カ月近くがたつ。近所のスーパーをのぞくと福島県および隣県の農産品は見かけるものの、明らかに安値で売られている。一見風評被害は収まっているかのように見えるが、ある程度まとまった量の青ネギやニラ、ホウレン草、チンゲン菜などが100円かそれ以下で並んでいるのが現実だ。神奈川県産や静岡県産、さらに西の方の産品ならその倍くらいの値を付けているというのに。
 発生直後のような表立った風評被害はなくても、地元の農家は引き続き相当苦しんでいるに違いない。この値段で元が取れるとは考えられないが、少しでも現金が入ってくるなら、あるいは廃棄処分にするくらいなら、市場に出して買ってもらいたいという切実な思いなのだろう。こんな値段で買うのは申し訳ないが、買わないより買った方が貢献できる。
 買う人が増えれば、値段も少しずつ元に戻ってくるかもしれない。昨年の夏ごろだったか、猛暑でキャベツが1300500円の高値を付けたことがある。さすがにほかの野菜で代用しようと考えてしまったが、福島県および隣県の農産品が一日も早く適正価格で売られるようになればいいと思う。
 現状では、出荷できるだけでもいい方なのかもしれない。事故の影響で、春を迎えても政府の制限によって、作付けさえも許されない農家が増えている。作っても土に染み込んだ放射性物質を作物が取り込んでしまい、出荷制限が想定されるからだ。確かにそうなのだろう。しかし農家にとって、作物を作れないというのは失業することに等しい。
 私は四国に親の実家があって、年に何度か帰省するが、夏になると周りには水をたたえた水田が青々と広がる。夜はうるさいくらいの蛙の声が子守唄だ。そんな被災地の原風景が帰って来る日はいつのことだろうか。農家の人々が、先祖代々の土地を手放さざるを得ない事態にならないことを、心から祈るばかりだ。
 そうした思いを抱きながらも、私は「福島県および隣県産を買うか買わないかは、日本人一人ひとりが判断すればいい」と考えている。それぞれに考え方の違い、また家族構成の違いで影響力も異なり、政府や人に強制されることではないと思うからだ。

買わないカゴメ、デルモンテ、買うモスバーガー

 そうした中、「福島県産を買う、買わない」の判断について、大手の食品関連企業で分かれたという2つのニュースが報道された。
 411日。食品大手のカゴメ(名古屋市中区)と、キッコーマン傘下の日本デルモンテ(東京都港区)がトマトジュースなどの加工食品について、今年は福島県産トマトを使わない方針をJA全農福島に通知していたことが明らかになった。キッコーマンは「東京電力福島第1原子力発電所の事故の影響で、県内各地の土壌から放射性物質が検出されたことを今月6日に福島県が発表したのを受けた措置。消費者へ確実に安心、安全な商品を届けられるか分からないから」と説明している(産経ニュース)。
 2週間後の425日。大手ハンバーガーチェーン、モスバーガー(東京都品川区)は、「国内農家をなるべく支援したいとして、福島県内の農家も含め契約の見直しはせず、出荷制限対象の野菜以外は継続使用する方針を強調した」(産経ニュース)。
 読者のみなさんは、これらのニュースを耳にした時、両社それぞれに対してどんな感情を抱いただろうか。カゴメ、デルモンテに対して心ないと感じた人、モスバーガーの勇気ある行動に思わず拍手を送った人もいるだろう。私はモスバーガーのニュースを聞いた後に、ネットの書き込みを見てみた。そこには、「今後は怖くて食べられない」「二度と買わない」といったネガティブなコメントが散見された。やはり少なからぬ人にとっては、本音では「怖いものはできるなら避けたい」という気持ちが先走ってしまうのだろう。
 しかしそれぞれのニュースを注意深く読み、各社のホームページを想像力も交えながら読み解くと、真実はやや異なっていることに気がついた。
 まずカゴメとデルモンテについて。事実として「今年は福島県産トマトを使わない方針をJA全農福島に通知」したこと、その理由としてキッコーマン(日本デルモンテ)の「消費者へ確実に安心、安全な商品を届けられるか分からないから」は間違いないだろうが、記事をよく読むと次のようなことが書かれている。
 「露地栽培するトマトは毎年4月に作付けし、78月に収穫するが、原発事故の動向次第では今後、土壌やトマトから放射性物質が検出される可能性があると判断、作った後で廃棄処分になるのは避けたい(カゴメ)として契約を見送ることを決めた」
 「カゴメは今後、契約を見送る農家に対し、売り上げの3分の1程度の見舞金を拠出する方針。また、両社とも独自にトマトの試験栽培を行い、安全性が確認されれば、来年は契約を再開する予定だという」
 日本デルモンテは、お客様の望む「おいしく、安全で、安心なもの」を満たすために、「安全でよりおいしい原料を調達」することと企業理念社長メッセージで宣言している。またキッコーマングループとしての基本理念1番目は、「消費者本位」だ。
 カゴメは社長メッセージで「自然の恵みを活かして、お客さまと社会の健康長寿に貢献できる企業でありたい」とし、企業理念では最初に「自然の恵みと多くの人々との出会い」に「感謝」するとしている。そもそも同社はさかのぼること112年、1899年の創業以来、トマトにとことんこだわってきた。
 これはホームページには書かれていない情報だが、同社は15年前の1996年、開かれた会社になるために創業家から資本と経営を分離。お客様である主婦のみなさんに株主にもなってもらおうと、ファン株主による「10万人株主構想」という途方もない方針を打ち出すも、2005年には達成、名実ともに「お客様資本」の会社となった。ホームページのIR情報が「ファン株主のみなさまへ」となっているのが異色だ。
 カゴメと日本デルモンテが1番目に大切と考えている対象が、消費者であるお客様である以上、彼らの安全を確保することが第1となる。消費者がもし不安を感じるならば、今年度についてはあえて福島県産のトマトを使わないという決断をしたのだろう。

買う、買わないの判断を分けた規準

 ではモスバーガーはどうだろうか。モスバーガーのMOSの意味は、MountainOceanSunの頭文字であることをご存じの方も多いだろうが、同社は日本発のハンバーガーチェーンとして、自然のおいしさと日本の食文化にこだわってきた。このことは創業翌年(1973年)に発売して大ヒットとなった味噌と醤油を使った「テリヤキバーガー」や、お米を使った「モスライスバーガー」(1987年)など、商品開発にも表れている。
 また同社は食の安全にも徹底的にこだわってきた会社として知られている。ホームページにはトップページの大項目に「モスの安心・安全」という専用ページがある。
 生野菜については協力農家を特定し、生産から出荷までを管理している。また栄養成分やアレルギー情報を早くから公開し、取り扱い食材全般の衛生管理、品質管理、店舗での衛生管理にまで、細かな目配りをしてきた。1997年には、「お客さまの健康へのさらなる貢献のために、国内の協力農家で農薬や化学肥料に頼らない栽培方法で育てられたモスの生野菜」を全店に導入した。
 同社の「企業目標」には、「私たちはおいしさ、安全、健康にこだわり、真心と笑顔のサービスとともに提供してまいります」とある。第1の対象は消費者であるお客様だ。この点ではカゴメや日本デルモンテと一致する。ただモスバーガーの場合、店舗の目指す姿を次のように表現している。「お客さまへ、地域社会へ、おいしさと健康と幸せをお届けしお客さまの明日への活力の再生の場となる」こと。地域社会への貢献にもこだわっているのだ。
 先ほどのニュースをよく読むと、「同社は全国約3000の契約農家の野菜を使用しているが国内農家をなるべく支援したい(三原美彦執行役員)として、福島県内の農家も含め契約の見直しはせず、出荷制限対象の野菜以外は継続使用する方針を強調した」。また「使用する国産野菜について、放射性物質についての独自の検査を始めたことを明らかにした」(産経ニュース)とある。
 ネットの書き込みにあったように、決して1番目に大切と考えている消費者をないがしろにしているわけではなかったのだ。出荷制限の産品かどうかは厳しくチェックしている。安全をこれまで同様に担保しつつ、原発被災地域の契約農家も守るために独自の判断をしたにすぎなかったのだ。
 ではカゴメと日本デルモンテは、地域社会を重要視していなかったのだろうか。日本デルモンテの3つの工場の1つは福島県南相馬市にある。今回避難指示の出された、福島第1原発から30km圏、JR原ノ町駅のすぐ近くだ。自らも原発被災者であり、避難を余儀なくされている人たちが地元の農家を見捨てるだろうか。トマトにこだわってきたカゴメは専属契約農家も抱えていたことだろう。カゴメ、日本デルモンテ両社にとって、今回の措置は苦渋の選択だったのではないかと想像する。
 結果として、福島県産の野菜を「買わない」「買う」という判断を分けることになったが、根本にあった判断規準には大きな違いがなかったことが分かる。実際、3社とも東日本大震災の被災地に向けては義援金を送り、モスバーガーは店舗での募金活動や食料支援(炊き出し)なども行っている。
 微妙な差が、最終的な判断を分けることになったのだろう。しかしながら背景を知れば知るほど、各社は独自の判断規準に基づいて行動しており、ブレていないことが分かる。私たちは、3社の判断の背景にあることを理解したうえで、それぞれを支持するかどうかを決めればいい。3社とも支持する人もいれば、いずれかを支持する人、いずれも支持しない人もいるだろう。それでいいのではないか。
 大切なのは、3社の判断をどう考えるかという自分なりの規準を、私たち一人ひとりが持つことだと思う。そのうえで必要なら批判ではなく、どうあるべきか前向きな議論をしていけばいい。

一人ひとりがブレない判断規準を持つこと

 マスコミ報道の表面的な部分、例えば最初に飛び込んでくる「タイトル」や「要約」だけを見ていても、必ずしも真実はつかめない。「タイトル」や「要約」は事実としては正しい場合が多い。にもかかわらず、当初紹介した「カゴメ、日本デルモンテ」と「モスバーガー」の2つのニュースを、正反対の判断であるかのようにとらえていなかっただろうか。
 少なくとも私は一瞬、対立軸のようにとらえてしまった。普段からニュースを積極的に取り入れていたはずなのに。ニュースを最後までよく読み、ホームページなどの情報から想像することで、思い込みや勘違いに気がつくことができた。「カゴメ、日本デルモンテ」と「モスバーガー」の判断規準に、根本的な部分で大きな違いがないことが見えてきたのだ。
 風評被害は、これからも簡単には終わらないだろう。特に目に見えない放射線の流出という、日本人の多くが経験したことのない原発事故においてある程度致し方ないとも思える。だが国民一人ひとりが、「情報力」と「想像力」をもう少し働かせることによって、その一部は食い止められるのではないか
 私は「風評に振り回されないため」に、ここにもう1つ加えたい。それは国民一人ひとりが、「自分自身のブレない判断規準を持つ」ことだ。
 カゴメ、日本デルモンテ、モスバーガーそれぞれが下した判断は、各社ならではのものだ。私はどの会社が正しく、どの会社が正しくないというつもりはない。そもそもこの問題は、幼いお子さんがいる、いない、また食品に対する考え方などで人によって判断のベースも異なる。だからこそ、福島県および隣県産を買うか買わないかは、日本人一人ひとりが判断すればいい。それは強制されることではないはずだ。
 ただ、一人ひとりが判断するためには、それぞれが自分なりの判断規準を持つ必要がある。「○○さんが買わないと言ったからなんとなく」「テレビの解説者が不安そうな表情だったからとりあえず」ではなく、「がんばろう! ニッポン」に共感した自分は今は買うのか、買わないのかを判断していくのだ。
 情報は刻一刻と変わっていく。現状はニュースを注意深く聞いていても、原発問題は解決に向かっているのか否かさえもよく分からない状況が続いている。一人ひとりが判断規準を持っていないと、ニュースの断片によって右往左往することになる。そのことは、そのまま風評被害につながる。
 消費者の「福島県および隣県産だから買う、買わないという判断」にはあまり根拠がない。出荷制限は今や県単位ではなく、市町村単位、地域単位となった。制限は発令されたり解除されたりとめまぐるしい。安全性が分かりづらいから、いっそ福島県および隣県産は購入の対象外としようという考え方も分からないではない。が、そこには「情報力」も「想像力」も「ブレない判断規準」もない、風評被害の温床だ。もしも今後、あなたの仕事や生活にかかわるところで風評被害が起きても文句は言えなくなる。それでもいいのだろうか。
 一人ひとりが日ごろからニュースの細かい点やもっと詳しい情報を取りにいく「情報力」を鍛える必要がありそうだ。現地に誰もが飛べるわけではない。情報の先にある現状を知るために、「想像力」も働かせることも重要だ。そして、これらの事実を基に自分がどう考え、どうしたいかをはっきりさせるために、「自分自身のブレない判断規準を持つ」こと。これらによって風評被害は最小限に防げると信じる。
 もちろん農家は原発被災地だけにあるわけではない。原発の影響はあまり受けていないが津波に襲われた地域では、海水をかぶったことで、元の姿にすぐには戻らない水田や畑が広がっている。そして忘れてはいけないのは、地震、津波、原発の被災地以外にも、全国に農家はあるということだ。
 被災地も応援したいが、一方的になり過ぎると困るのはそれ以外の農家だ。福島県および隣県産の野菜は応援したいが、安いからという理由で買いに走ると、被災地以外の農家の産品はさっぱり売れなくなってしまう。そのあたりのバランスをどのように考えていくのかも大事だ。
 政府の情報公開が不十分な点は、もっと要望していこう。しかしそれが不十分だから何も判断ができないとするのは、言い訳がすぎる。得られる情報はいっぱいある。「情報力」と「想像力」を生かし、国民一人ひとりが「自分自身のブレない判断規準を持つ」ことで対応していけば、事態は打開できていくのではないだろうか。
 この国に、風評被害など起こしている時間などないはずだ。復興に導くべき国民一人ひとりにその真価が問われている。自戒を込めて。

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